【ドイツのモノづくり】1000年以上進化し続ける高品質工具たち
2023.12.22
レビュー一度は使ってみたいドイツ工具たち!
KNIPEX社(クニペックス)、Wera社(ヴェラ)、BERGER社(バーガー)、GEDORE社(ゲドレー)、ENDRES TOOLS社(エンドレスツールズ/ブランド名:アーマグ)、HAZET社(ハゼット)、martor社(マーター)と高品質で魅力的なドイツメーカーの工具たちは挙げればキリがありません。
実は、これら世界を代表する一流ドイツ工具メーカーは、ある一部地域にずらりと並んでいます。
ドイツ工具の聖地と呼ばれ、ドイツ語で「山々しい場所」の名前をもつBergisches Land(ベルギッシェス ラント)でも特に手作業工具メーカーが集積する、Wuppertal(ヴッパータール)市の南側地域にありますCronenberg(クローネンベルク)エリアにて、その秘密を探って来ましたので紹介します。
実は、これら世界を代表する一流ドイツ工具メーカーは、ある一部地域にずらりと並んでいます。
ドイツ工具の聖地と呼ばれ、ドイツ語で「山々しい場所」の名前をもつBergisches Land(ベルギッシェス ラント)でも特に手作業工具メーカーが集積する、Wuppertal(ヴッパータール)市の南側地域にありますCronenberg(クローネンベルク)エリアにて、その秘密を探って来ましたので紹介します。
Cronenberg(クローネンベルク)はNRW州(ノルトラインヴェストファーレン)の州都である、Duesseldorf(デュッセルドルフ)市から東へ約50Kmの場所にあります。※上記地図参照
この記事をご覧頂ければ、なぜ、この辺りが高い品質の工具を製造するメーカーの一大集積地で、長きにわたり品質を維持できているのかが納得できると思います。
この記事をご覧頂ければ、なぜ、この辺りが高い品質の工具を製造するメーカーの一大集積地で、長きにわたり品質を維持できているのかが納得できると思います。
歴史とロケーションから探る
このエリアでは1000年以上も前から必然的に工具づくりが栄えるようになりました。
日本では平安時代を迎えていた頃です。
地形勾配のアップダウンが激しい森に囲まれて雨が多く、土壌が硬いことから作物が育ちにくい土地でしたが、工具が作りやすい環境でもあったのです。
急勾配が多い地形から得られる小川の流れによって水車は水力を生みだし、家を建てにくい斜面ではたくさんの木が育ち、それらは薪として活用されていました。
日本では平安時代を迎えていた頃です。
地形勾配のアップダウンが激しい森に囲まれて雨が多く、土壌が硬いことから作物が育ちにくい土地でしたが、工具が作りやすい環境でもあったのです。
急勾配が多い地形から得られる小川の流れによって水車は水力を生みだし、家を建てにくい斜面ではたくさんの木が育ち、それらは薪として活用されていました。
急勾配の山あいにひっそりと建つ家屋とその近くを流れる小川
そして鉄鉱石も昔はこの土地で採掘され、塊鉄炉(かいてつろ)によって鉄が製錬されていました。
この地域で使用された塊鉄炉(写真左)の模型と採掘されていた鉄鉱石(写真右)
工具をつくるには最適な条件が整った土地として、必然的に工具づくりが始まりました。
1860年頃にBergisches Land(ベルギッシェス ラント)地域では水力を原動力とする鍛造機が169台、研磨機が206台あり、水力は非常に重要な動力源として活躍していました。
1860年頃にBergisches Land(ベルギッシェス ラント)地域では水力を原動力とする鍛造機が169台、研磨機が206台あり、水力は非常に重要な動力源として活躍していました。
水力を動力に使った鍛造工程の様子
水力には他にも重要な役割があります。鉄を鍛造加工するために不可欠な高温の炎を生みだす、大きなブロアの動力源です。ブロアを動かし大量の酸素を供給することで、薪を燃やして火力をあげ、鍛造するための鉄を1000℃以上もの温度に熱することが出来るのです。
人の背丈ほどある大きなブロア。人力で動かすには無理があります。水力は鍛造より実は、ブロアを動かし酸素を供給し、炎の温度を上げる事のほうが重要視されていました。
17世紀までは農業用に使われる鎌や大鎌が手作業で鍛造され、19世紀後半には金型を使ったドロップ・フォージング※へ進化し、現代にいたる高い品質を保つ工具づくりへと進化していきました。
※ドロップ・フォージングとは熱した鉄にハンマーを叩きつけ、鉄の強度を上げる生産工程の1つ。
※ドロップ・フォージングとは熱した鉄にハンマーを叩きつけ、鉄の強度を上げる生産工程の1つ。
このエリアを代表する工業品であった鎌や大鎌。当時から近くを流れるライン川や陸路にて、オランダやスペインといった近隣諸国に輸出しており、一級品として取り引きされていたようです。
人々の気質
私はドイツに約3年半駐在していますが、実際に住んでみると、ドイツ人は真面目で勤勉な人が多く「大柄な日本人」と感じる事が多いです。
それが“モノづくり”の現場となると尚更です。職人さん達は多くを語らず、背中を丸めて黙々と作業している姿は、日本の“頑固オヤジ”に通ずるのではないでしょうか?
この土地に住む人々は子供のころから工具づくりを見て覚え肌で感じ、良い工具をつくることや研磨などの加工を施せることを一番の喜びとして育ってきました。
だから、この土地で育った人々は「工具の街」として誇りを持っている人が多いようです。
それが“モノづくり”の現場となると尚更です。職人さん達は多くを語らず、背中を丸めて黙々と作業している姿は、日本の“頑固オヤジ”に通ずるのではないでしょうか?
この土地に住む人々は子供のころから工具づくりを見て覚え肌で感じ、良い工具をつくることや研磨などの加工を施せることを一番の喜びとして育ってきました。
だから、この土地で育った人々は「工具の街」として誇りを持っている人が多いようです。
しのぎを削って腕を高めあったドイツのマイスター(職人)たち。
工具や農機具、刃物を製造する工程で研磨作業がありますが、19世紀には研磨用砥石がベルギーとの国境に近いEifel(アイフェル)という町から運ばれていました。
砥石は現在のように安全に配慮されたものではなく、天然石をそのまま利用していました。
そのため回転する砥石の分裂によって、石の破片が頭や身体に当たり、命を落とした職人も少なくないようです。
砥石は現在のように安全に配慮されたものではなく、天然石をそのまま利用していました。
そのため回転する砥石の分裂によって、石の破片が頭や身体に当たり、命を落とした職人も少なくないようです。
研磨作業場の様子
さらに、研磨作業で出る粉塵を吸い続けるが故に塵肺などの病気を引き起こし、平均寿命は40歳とされていました。
リスクを知りながら命を削ってまで良い工具・道具を作りたい職人たちが集まった場所であれば、今でもその職人気質がこの地に受け継がれていることに納得できます。
それほどこの土地で暮らす人々にとって工具づくりは大切なのです。
リスクを知りながら命を削ってまで良い工具・道具を作りたい職人たちが集まった場所であれば、今でもその職人気質がこの地に受け継がれていることに納得できます。
それほどこの土地で暮らす人々にとって工具づくりは大切なのです。
リスクを知りながら研磨作業に励む職人たち
このように、上質な工具を作ることができる自然環境と資源が整い、1000年以上の伝統を受け継ぐ職人気質溢れる人々が作り上げた、高品質な工具は手に取ってみると何か感じるものがあるはずです。
高級外車に乗って快適だと感じる感覚に似ています。
さぁ手に取って使ってみたくはありませんか!?
高級外車に乗って快適だと感じる感覚に似ています。
さぁ手に取って使ってみたくはありませんか!?
ベルギッシェス ラント地域の工具メーカー紹介!
●ヴッパータール
1882年に創業し、今なおドイツ・クローネンベルクでの製造だけにこだわったプライヤーを、世界中に提供する老舗メーカーです。モノを掴む、回す、切ることに特化した高い品質の商品を提供しています。ヨーロッパで見かける現場の職人さんたちの工具差しには、頻繁にKNIPEX社製のプライヤーが備わっているのを見かけます。
🔨取扱い商品:ニッパ、ペンチ、ウォーターポンププライヤー、プライヤーレンチなど
🔨取扱い商品:ニッパ、ペンチ、ウォーターポンププライヤー、プライヤーレンチなど
ドライバーやビットを始めとし、あらゆるネジ・ボルト締め工具の専門メーカーです。BE A TOOL REBEL(工具の反逆者)のロゴからも分かるように、常に革命的な商品を開発します。手を自然に握った形のハンドルである「クラフトフォームハンドル」は、握り易いと評判で日本でも御馴染みです。
🔨取扱い商品:グリップドライバー、六角棒レンチ、スパナ(JORKER)、ビット、マイクロドライバーなど
🔨取扱い商品:グリップドライバー、六角棒レンチ、スパナ(JORKER)、ビット、マイクロドライバーなど
100年以上の歴史があり、クローネンベルクの自社工場にて鍛造と研磨を丁寧に施しており、多数の緑化用品を製造しています。女性社長が率いる同社は、ハサミの刃にも丁寧な焼き入れ処理を施しており、切れ味が良く長寿命な緑化用ハサミを豊富に取り揃えております。
🔨取扱い商品:剪定ハサミ、刈込ハサミ、高枝切りハサミなど
🔨取扱い商品:剪定ハサミ、刈込ハサミ、高枝切りハサミなど
●レムシャイト
1919年にレムシャイトにて創業し世界最大規模の鍛造機を保有し、壊れにくく安全で丈夫な工具を製造する総合工具メーカーです。ドイツにある6か所の製造拠点を中心に、世界各地の生産工場にてコストパフォーマンスの優れる最適な工具を製造しています。
🔨取扱い商品:トルクレンチ、ツールトロリー、スパナ、ソケット、ラチェットハンドルなど
🔨取扱い商品:トルクレンチ、ツールトロリー、スパナ、ソケット、ラチェットハンドルなど
1992年に創業し火花を発してはいけない過酷な環境下で使用される、防爆工具を製造しています。素材は安全性の高いアルミニウム青銅にこだわり、「Made in Germany」製の防爆工具となります。ニッチな市場ですがミスが許されない世界中の現場で活躍しています。
🔨取扱い商品:防爆ソケット、防爆スパナ、防爆メガネレンチなど
🔨取扱い商品:防爆ソケット、防爆スパナ、防爆メガネレンチなど
1868年の設立から自動車、モータースポーツ業界で高い知名度を誇り、腕利きのメカニックたちから信頼されるメーカーです。長年に渡ってポルシェモータースポーツの公式サプライヤーとして、トップレベルの工具を提供しております。工具だけでなくツールボックスやトレーなど周辺商品も人気が高いです。
🔨取扱い商品:ラチェットハンドル、ソケット、プーラー、車輛整備用工具など
🔨取扱い商品:ラチェットハンドル、ソケット、プーラー、車輛整備用工具など
●ゾーリンゲン
刃物の街として有名なゾーリンゲンにて、開梱、開封、切断などの作業で起きる怪我から守るセーフティカッターを、80年以上にわたり製造しております。SECUMAX(セキュマックス)、SECUPRO(セキュプロ)、SECUNORM(セキュノーム)と3段階の安全レベルから作業に合う商品を選べます。
🔨取扱い商品:セーフティカッター全般(シートカッター、カートンカッターなど)
🔨取扱い商品:セーフティカッター全般(シートカッター、カートンカッターなど)
【付録】ドイツ“モノづくり”の歴史に触れるManuelskotten(マヌエルスコッテン)
250年以上も前からこの土地で研磨作業場として活躍しており、当時の水車の様子をそのまま伺い知ることができる、ManuelSkotten(マヌエルスコッテン)にも訪問して話を伺う事ができました。
マヌエルスコッテンとはドイツ語で「マヌエルの小屋」を意味しており、当時の所有者であるマヌエル氏の名前にちなんでおり、1775年に建てられたとされる小屋は(1901年に一度焼失)、今なお大型の研磨砥石を使って食肉加工用のスライサーを研磨しています。
名前は小屋と呼ばれますが現役で活躍している工場です。
名前は小屋と呼ばれますが現役で活躍している工場です。
①現役で活躍している大型の研磨機械
②マヌエルスコッテンでの研磨作業の様子
③④マヌエルスコッテンで作られる食肉加工用スライサー
ここは起伏の激しいクローネンベルクの森の中にあり、工場の隣には小川が流れており、その上流には貯水池があります。
まさにここぞ工具づくりに適した場所!といった所です。
まさにここぞ工具づくりに適した場所!といった所です。
安定的に水資源を得るために溜め池がある事が分かります。
その水の流れを利用して動力に変える、直径5.6m幅1mの大きな水車が動いており、当時の職人さんたちの仕事を支えていました。
最大で27馬力も生み出すことができる大きな水車ですが、遠心調速機(1900年初頭に導入)によって適正なトルクで砥石の回転速度管理ができるなど、正確な“モノづくり”が昔から行われていたことを知る事が出来ました。
最大で27馬力も生み出すことができる大きな水車ですが、遠心調速機(1900年初頭に導入)によって適正なトルクで砥石の回転速度管理ができるなど、正確な“モノづくり”が昔から行われていたことを知る事が出来ました。
最も多いときで28名の職人さんたちが在籍していたこの場所は、日々腕を競い合い、高い品質に命を削って作った工具や道具を造る魂が、現代へも受け継がれている事を肌で感じる事ができる、非常に貴重な体験となりました。
記事について
この記事はKNIPEX社併設のKNIPEXミュージアムへ訪問する機会を頂き、同社社長であるラルフプッチ氏との対談をもとに作成しております。
写真左からKNIPEX社社長・ラルフプッチ氏、トラスコ中山㈱ドイツ駐在所長・東、ライター・佐々木
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ご不明な点は、下記「お問い合わせフォーム」より問い合わせ下さい。
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この記事を書いた人
トラスコ中山 海外調達課
世界30か国以上からのプロツールを開拓・調達しています。